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材料の視点から見る全固体電池と液体電池

今や現代社会において必要不可欠であるリチウムイオン電池は液体電解質を使用した二次電池ですが、熱暴走リスクや漏液・漏ガスによる発火のリスクは否定できず、リサイクルの課題もあります。そこで次世代のエネルギー貯蔵技術として注目を集めているのが「全固体電池」です。この記事では両者を材料科学の視点から詳しく解説していきます。 全固体電池とは?その基本構造と特徴 全固体電池は、その名の通り、すべての構成要素が固体でできている革新的な電池です。従来の電池と異なり、液体電解質を使用せず、固体電解質を採用しているのが最大の特徴です。これにより、漏れや発火のリスクが大幅に低減され、安全性が飛躍的に向上しています。 全固体電池と従来の電池の違い 従来のリチウムイオン電池は、正極と負極の間に液体の電解質が使われる「液体電池」ですが、全固体電池ではこれが固体に置き換えられています。この違いは単なる物理的な状態の違いだけではなく、エネルギー密度、充放電速度、寿命、そして何より安全性に大きな影響を与えます。液体電解質は可燃性であるため発火リスクがありますが、固体電解質はそのリスクを根本的に排除できるのです。 項目全固体電池液体電池エネルギー密度500~1000 Wh/kg(理論値)150~300 Wh/kg(現行品)動作温度-40~100℃以上0~45℃(標準動作範囲)サイクル寿命10,000回以上(目標)500~3,000回急速充電数分~15分で80%充電(目標)30分~1時間で80%充電 ZACROSの接着フィルム「タブシールフィルム」 耐電解液適性があり、異種材料接着を得意とする「タブシールフィルム」は、タブ(金属)と外装袋を強固に接着するため、バッテリーの信頼性向上に役立ちます。 全固体電池の主要材料一覧 全固体電池の性能を左右する主要な材料には、固体電解質、正極材料、負極材料があります。固体電解質には主に酸化物系、硫化物系、ポリマー系の3種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。 固体電解質 酸化物系は化学的安定性に優れ、硫化物系は高いイオン伝導性を示し、ポリマー系は柔軟性と加工性に長けています。これらの材料特性を理解することで、用途に応じた最適な電池設計が可能になります。 ① 硫化物系材料の特性と用途硫化物系材料は、イオン伝導性が高いという大きな利点を持っています。特にLi₇P₃S₁₁やLi₁₀GeP₂S₁₂などの材料は、室温でも液体電解質に匹敵するほどの高いリチウムイオン伝導性を示します。ただし、空気や水分に触れると有害なH₂Sガスを発生させる欠点があるため、製造プロセスや封止技術に特別な配慮が必要です。現在、この欠点を克服するための研究が活発に行われています。 ② ポリマー系材料の特性と用途ポリマー系固体電解質は、ポリエチレンオキサイド(PEO)を主成分とする材料が代表的です。最大の特徴は優れた柔軟性と加工性にあり、電極との密着性が非常に良好です。また、薄膜化が容易で、フレキシブルな電池の製造に適しています。しかし、室温でのイオン伝導性が低いため、動作温度を60-80℃程度に上げる必要があります。この特性を活かして、ウェアラブルデバイスや医療機器用の小型電池、温度管理が可能な定置用蓄電システムなどでの応用が検討されています。 ③ 酸化物系材料の特性と用途酸化物系固体電解質は、化学的安定性と安全性に優れた材料です。代表的なものにガーネット型のLi₇La₃Zr₂O₁₂(LLZO)やペロブスカイト型のLi₃ₓLa₂/₃₋ₓTiO₃(LLTO)があります。大気中でも安定していて取り扱いやすく、高温での動作にも優れています。また、電気化学的な安定性が高く、金属リチウム負極との相性も良好です。ただし、イオン伝導性が硫化物系に比べて低く、焼結温度が高いため製造コストが課題となっています。その安定性を活かして、長期間の信頼性が求められる宇宙・航空機器用電池や、高温環境での使用が想定される産業用途での実用化が進められています。 正極材料 正極材料は基本的に液体電池と同じ材料が使用できますが、固体電解質との界面で新たな課題が生じます。特に充放電時の体積変化により、電極と電解質の接触が悪くなり、抵抗が増加する問題があります。この解決策として、電極材料を微細化したり、導電助剤や固体電解質粉末を混合したりする技術が開発されています。 負極材料 全固体電池の最大の革新である金属リチウムの使用が可能になります。液体電池では金属リチウムを使うとデンドライト(樹枝状結晶)が成長し、セパレータを貫通して短絡を起こす危険がありました。しかし、固体電解質は機械的強度が高いため、デンドライトの成長を抑制できます。これにより、理論上最高のエネルギー密度の実現が期待されているのです。 全固体電池の利点と課題 全固体電池が注目される最大の理由は、その優れた安全性にあります。液体電解質を使用しないため、漏れや発火のリスクが大幅に低減されます。また、固体電解質は広い温度範囲で安定して動作するため、極端な環境下でも安全に使用できます。その他にも高いエネルギー密度や長寿命といった利点があります。一方で、イオン伝導性が液体電解質に比べて低いこと、電極と電解質との密着が難しい、製造コストが高いことなどが課題として挙げられます。これらを解決するための研究開発に世界中が取り組んでいます。 全固体電池の材料開発の最前線 全固体電池の実用化に向けて、材料開発は日々進化しています。特に固体電解質の性能向上と製造コストの削減が重要な課題となっています。 新素材による性能向上の試み 近年では、ガーネット型酸化物やペロブスカイト型酸化物など、新しい固体電解質材料の研究が進んでいます。また、ナノテクノロジーを活用して電極と電解質の界面抵抗を低減する試みや、3Dプリンティング技術を用いた新しい電池構造の開発なども行われています。 全固体電池は、すでに小型のものは量産化されており、開発が進んで大型化されれば、全固体電池が搭載された電気自動車が街中を走る光景が日常になるかもしれません。

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